継続は力なり

2011/07/02 17:37
黙々と、仕事をする彼だった。
同年齢だったせいか、話が合う。どちらかというと、彼は、聞き役だったような気がする。

もっとも、カウンターに座って、酔客の相手をするのは、聞き役に徹することが彼の仕事だったのかもしれない。
しかし、手だけは動いていた。

客がいないと、カウンター越しに彼は、明日のランチの支度をする。
小さくしたニンジンの角をとる包丁の動きが、なめらかだった。その包丁は小さくなって果物ナイフより小さかった。
キャベツの千切りの包丁の音がタップダンスのように踊っていた。
肉の筋を切る包丁の刃先が、幾本もある筋をなぞるかのようだった。
一緒にゴルフに行ったとき、途中、大便をもよおして、離脱して、迷子になったときがあった。その笑い話は今でも、語りぐさだ。野糞ではなかったが……

ひとしきり聞きに徹していたかと思うと、相づちを打つ。それが、「継続は力なり」だ。
思いだして見れば、この言葉を彼の口から聞くことが多かった。

彼は6月28日午後、路上で倒れた。脳幹出血という。医師は、「すぐには手術ができない場所です」と、今も、集中治療室に入れられている。
身体を固定されているが、翌日、不死身のように、彼の意識は戻った。

奥さんは、「絶対に戻ってくるから待っていてね!」とメールをくれた。
「おお、待っている!待っている!」

病院で治療に専念することも、包丁を握ることも、「継続は力なり」だ!
継続は、人生の途中だ、「途中にあって家舎を離れず」も、力だとも思う。

お店の隣の奥さんに言われた。「祈ってくださいね」と……

おお、帰ってこい!帰ってこい!

今度は私が聞き役だから……



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